【カーボンニュートラルへの架け橋 3】

「今、動かないと、日本は負けてしまう」

Siemens Gamesa Renewable Energy(株)  代表取締役社長 ケイト ラッセル氏

8月31日~9月2日開催の「WIND EXPO秋~【国際】風力発電展~」セミナーに登壇されるケイト ラッセル氏。世界の洋上風力発電メーカー三強のひとつシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーの日本法人代表者として、日本の風力発電推進に携わってきた立場から、2050年カーボンニュートラル実現にむけた風力の未来を語っていただく予定です。今回は、講演に先駆けてケイト氏の最新インタビューをお届けします。

・プロフィール【ケイト ラッセル】

エネルギー分野に20年以上携わり、化石燃料からクリーンな再生可能エネルギーへの焦点の変遷を経験。シーメンス ガメサ日本法人にて事業拡大を率いる現職に就く以前は、日本および海外の企業にて、新設プラントやサービスの調達、営業、プロジェクト管理を担う。


■日本で20年の実績。今年は大きな動きも。

―前回に続いて「WIND EXPO秋」のセミナーにもご登壇いただけるとのことで感謝申し上げます。今回のセミナーのお話をうかがう前に、まずは改めて貴社の事業紹介をいただければと思います。

ケイト:シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは、洋上と陸上における風力発電所に関する事業を世界で展開している会社です。現在、本社はスペインにあり、ドイツを本拠とするシーメンス・エナジー社が株式の67%を持っています。既にニュースになっている通り、そのシーメンス・エナジー社が残りの株の買収を検討中で、今後その方向でことが進めば、シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは上場廃止となり、シーメンス・エナジー社へと統合されます。

これまで私達は、日本市場で20年以上にわたって「洋上風力発電」「陸上風力発電」ともに事業活動を行ってきています。実績としては既に600MW以上の建設が完了し、さらに500MW程度が建設される予定で、2023年中には合計1GWを越える見込みです。当社は洋上風力発電機向けに独自のダイレクトドライブ技術を持っており、この技術が高く評価され、セールスにも大きく貢献しています。さらに7月末には、私達にとって日本で初めての洋上風力発電プロジェクトとなる石狩湾新港洋上風力発電事業への風車供給が決まったことを発表しました。シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーの今年後半の動きに、ぜひ注目していただきたいと思います。

 

―ありがとうございます。大きなニュースがいろいろと飛び込んできそうですね。今年度後半の業界の動向から目が離せません。

■欧米や台湾や韓国と比べて、複雑な日本。

―続いて、日本の洋上及び陸上の風力に関してお聞きします。日本市場の発展のために、ケイトさんご自身は今、何が重要であるとお考えでしょうか?

ケイト:私達が何よりも期待していることは、日本政府にもっと簡単にプロジェクトを推進できるようにして欲しいということです。日本のプロジェクトは、他の国々と比較すると非常に時間がかかります。他国では3、4年で済むことが、日本では8年ほどかかるのです。

さらに、日本はプロジェクトの承認過程も大変複雑です。ヨーロッパなど他の国々では、プロジェクトが早く進むように政府が主導して承認までの道筋を整えたりするので、とても簡単にできる仕組みになっています。

 

―他の国々とは、アジアも含む話でしょうか?

ケイト:そうです。ヨーロッパやアメリカだけでなく、台湾や韓国と比べても日本の方が複雑ですね。そもそも日本のプロジェクトは、ヨーロッパやアメリカよりも規模が小さいです。他の国が1GWや2GWのプロジェクトを展開しているのに比べ、日本は300MWや500MWのプロジェクトです。そして承認がとても複雑で時間がかかる。だから私達だけでなく、他のOEM含めて、日本市場に興味があっても参加するのが難しい状況になっていると思います。

 

―他の国のように、もっとスピード感を持つことで、競争力もつき、発展が加速するというお考えなのでしょうか。

ケイト:そうですね。私達は日本政府の2030年までの10GW、2040年までの35GWの計画をサポートしたいと考えています。ですがこのままであれば、2030年までに10GWを達成することは不可能かもしれません。

 

―なるほど。では、陸上の風力においての日本のポテンシャルは、どのようにお考えでしょうか。

ケイト:陸上ももう少し簡単にした方がいいと思いますが、洋上ほどは大きな問題は感じていません。とは言うものの、政府による2030年までに17GWという目標の達成は難しく、今後は毎年1.4GWのペースで進めないと間に合わない。今、毎年1GW程度の承認ですから、もっとどんどんやっていかないといけません。

日本での風力発電事業には、特有の問題もあります。日本の地震と台風です。これは他国にはないことです。1年のうち6月から10月までが台風の時期なので、この台風に対応できる発電所を作らなければならないわけです。シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーでは、IEC(国際電気標準会議)が設定している、風車が台風に耐えられる性能を示す「ClassT」の認証を既にとっています。私達のダイレクトドライブ技術を採用した風力発電機により、今後も洋上、陸上ともにさらに市場の拡大を目指していくつもりです。

■日本の風力の未来を考えるセミナー。

―8月31日「WIND EXPO秋」セミナーでの、ご講演についてお聞きします。どのような内容になりますか?

ケイト:タイトルは「エネルギー安全保障と脱炭素への取組みによって推進される風力の未来」です。ロシアによるウクライナ侵攻で、今、エネルギーの世界はさまざまな問題がでてきており、特にヨーロッパではどの国も自国のために自分達で電気エネルギーをまかなわないといけない流れとなりました。日本も石炭やガスなど天然燃料を持っていない国として、風力を積極的に取り入れるなど再生可能エネルギーへの対応を強化しなければなりません。2050年までのカーボンニュートラル実現を目指して、日本の風力発電の可能性を最大限に引き出すための政策や製品、技術などについて、私達が考えていることを皆さまにお話したいと思います。また、20年以上日本で活動を続けてきたシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーができることについて、お伝えしたいですね。

 

―世界的な問題であるエネルギー危機を日本はどう乗り越えていけるのかというところを、ぜひケイトさんに講演でお話していただきたいです。新しいエネルギー確保が必要とのお話がでてきましたが、シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーでは風車を使って水素を作る、グリーン水素の分野でも知られているとお聞きしています。海外では既に、グリーン水素はかなり一般化しているのでしょうか。

ケイト:そうです。昨年のWIND EXPOでも紹介させていただきましたが、かなり普及しています。例えば、コペンハーゲンでは陸上風力発電した電力により作られた水素を使ったタクシーが走っており、私達は1日50台から70台相当の水素を供給しています。シーメンス・エナジー社が持つ水電解装置技術を活用して、14MWの洋上風力の発電機を使い、水電解装置を使って海上で水素を作り、パイプラインで水素を本土へ輸送するというプロジェクトに参画しています。

 

―日本も、早く追いついて欲しいと思います。最後に、今回の展示会やセミナーに来場される方に向けてメッセージをお願いします。

ケイト:私達シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは世界で事業展開していますので、そこで見てきたものを日本の皆さまにお伝えしてまいります。そして、風車メーカーをはじめとする業界の方々や政府、METIとも一丸となって、日本の風力発電開発が少しでも早く進むよう一緒に頑張りましょう。今、動かないとすべては後の祭りです。私は日本拠点代表として、台湾や韓国、ベトナムなど他の国々に負けたくはありません。どんどん進めることでサプライチェーンもついてきます。日本は世界で4番目にエネルギーを消費している国なのですから、グローバルリーダーを目指しましょう。海外メーカーから見て日本市場が魅力的に見えない状況におちいらないように、できるだけ早く前に進むことを期待しています。